「はぇ…ここは……」
窓から指し込む光に反応し、サユリは重い眼をゆっくりと開いた。見知らぬ天井に部屋…徐々に意識が明確になっていく中、今自分はどこかの家のベッドに寝かされているのだと理解した。そして自分は誰かに助けられたのだとの自覚に至った。
(助かったのはサユリだけ…?ジュンさんは…?)
最初に頭を過ったのはジュンの安否だった。自分と護る為に共に海へと飛び込んだジュンさんは無事なのだろうかと。
「おやおや、ようやく気が付いたようだね」
暫くすると、サユリの前に30〜40歳の一人の女性が現れた。
「あの…あなたがサユリを…」
「ええ。海岸で倒れていたのを見掛けて」
「そうでしたか。サユリを助けていただいてどうもありがとうございました」
自分を助けてくれた女性に、サユリは深々と頭を下げて礼をした。その後サユリはいくつか質問をした。ここはどこなのか、自分がどれくらい気を失っていたのか、そして、自分の他に青年が流れ着いていなかったかと。
女性の答えはこうだった。ここはハイネセンから北上した所に位置する河口に開けた町、ファルス。サユリはファルスの港に流れ着いた所を発見され、三日間気を失っていたという話だった。そして流れ着いたのはサユリ一人だけだったと…。
「そうでしたか…」
女性の話を聞き、サユリは酷く落胆した。また自分を護る為に人が犠牲になってしまったと。
出来うるならジュンさんも助かっていて欲しい。今のサユリにはジュンの安否を願う事しか出来なかった。
「ちょっとあなた、目覚めたばかりでいきなり立ち上がっちゃ…」
ヨロリ、ヨロリと体力が回復し切っていないサユリがベッドから無理に立ち上がる姿を見て、女性は慌てて声をかけた。流れ付いたサユリの身なりから高貴な身分の者だというのがうかがえ、なるべく恩を売っていおいて後から礼金をもらうというのが女性の腹だった。だからサユリの身を案じて声をかけたのではなく、身元が分かるまでサユリを手放したくないというのが本音だった。
「今までサユリの看病をして下さった手合い申し訳ないのですが、サユリは向かわなくてはならない場所があるのです。今までサユリの看病をして下さってどうもありがとうございました。今は何も持ち合わせておりませんが、このお礼は後日必ず致しますので」
「そうかい。じゃあ気を付けて行くんだよ」
サユリの口から礼をするという言葉が出たのなら特に拘束しておく必要もないと、女性はあっさりとサユリが出て行くのを認めた。
(それにしても、これからどうすれば…)
女性に礼を言い別れた後、サユリは悩みながらファルスの町を歩いた。今の自分のすべき事は、リヒテンラーデに向かうことだ。けど、何より今は生きていることを願い、ジュンさんを探しに行きたい。自分の使命と素直な想いとの葛藤に、サユリは今自分が何を優先したらいいのか答えを出せずにいた。
「ドンッ」
「キャ!」
悩みながら歩いていたサユリは注意力が散漫になっており、前を歩いていた人に思いっきりぶつかってしまった。
「ごめんなさい、前をよく見て歩いていな…あっ…」
自分がぶつかった人の顔を見てサユリは言葉を失った。驚くべき事に、自分がぶつかった人は、マスカレイドを取り戻す為に一人旅立ったマイだったのだ。
「……。サユリ…どうしてここに……?」
そしてぶつけられたマイ自身も動揺を隠せずにいた。マイはサユリの婚姻の話を知っている訳もなく、サユリは新無憂宮で安穏とした日々を送っているものとばかり思っていたのだった。
「マイ、マイ〜〜!!」
今まで溜まり切っていた感情をすべて洗い流すかの様に、サユリはマイに抱き付きながら声を上げて泣いた。自分の為に多くの人の命が失われてしまった哀しみ、辛さ…。そしてその孤独を抱えながらも前に進まなくてはならない現状…。
自分の心のすべてを許す事が出来るマイに出逢えたことにより、あらゆる心のわだかまりのすべてが氷解した。
「サユリ…」
サユリが今まで何があってここにいるのか、それは分からない。ただ、泣きたくてたまらない感情を心にしまい込み、それを自分の前にさらけ出しているのは理解出来た。
そのサユリの心を察し、マイはサユリが泣き止むまで優しく抱き続けた…。
|
SaGa−16「野盗の影」
「そう…そんな事が……」
気を落ち着かせたサユリから、マイは今に至るまでの経緯を聞いた。リヒテンラーデ公との縁談を断わる為にリヒテンラーデに赴く事となり、その最中モンスターに襲われプリンセスガードのジュンと共に海に飛び込み、ファルスに流れ着いた事を。
「そう…私に会いたかったから……」
サユリがそもそもリヒテンラーデに自ら赴こうとしたのは、縁談を断わった足でマイと共に旅をする為だった。それを聞いた時、マイは胸が引き締められそうになった。
自分がマスカレイドを盗まれるなどという失態を犯さなければ、サユリの側にいてずっと護り通す事が出来たし、私を追って危険な目に遭うこともなかった。
自分はサユリを護りたいと思っているのに護り通す事も出来ず、逆に危険な目に遭わせてしまった。そうマイは自分自身の不甲斐無さに問いかけた。
「それでサユリ、これからどうするつもりなの…?」
「このままリヒテンラーデに向かうか、サユリと共に海に飛び込んだジュンさんを探すか正直迷っているわ…」
「サユリ…サユリのやりたいことをやればいい…。私はどこまでもサユリに付いて行くから…」
「えっ、それはダメ!だってそれじゃマイが新無憂宮に戻れるのがどこまでも見通しの立たないことになるから……」
マイの一言に、サユリは反対の意を示した。サユリ自身、その言葉は自分を気遣ってかけた言葉であるのは分かっていた。けど、それはマイ自身の任務を否定する事になる。任務を放棄してまでマイに付いて来て欲しくないとサユリは思ったのだった。
「でも…私がマスカレイドを盗まれなかったなら、サユリがこんな危険な目に遭うこともなかった……。だから…」
「マイ…そんなに自分を責めないで…。サユリが危険な目に遭ったのはマイのせいじゃない…。サユリがずっとずっと人に護られてばかりで自分の身を自分で護る強さがなかったから…。
そう…サユリはずっと誰かに護ってばかりでした…。ですから、今度はサユリが護ってくれた方々にお返しをする番です。だからサユリはマイと一緒にマスカレイドを探します。マイの力になりたい、そう思ったからこそサユリは旅に出たのですから」
「サユリ…」
ずっとずっとマイはサユリを護ってくれた、だから今度は自分がマイにそのお礼を返す番だ。
この事故のことはお兄様の耳に入っている筈だから、縁談の話はお兄様が何とかしてくれる筈。唯一の心残りはジュンさんの消息が不明なこと。けど、ジュンさんに一緒に来て欲しいと言ったのはマイに落ち合うまでという条件付だった。そして今、その条件が満たされた…。
けど、ジュンさんのことを忘れた訳ではありません。必ず生きていると信じていますから…。だから今はサユリの旅の目的を果たさせて下さい!
そう心に強く誓い、サユリはマイと共にマスカレイドを探しに行くことを決意したのだった。
「分かった…。じゃあ一緒にマスカレイドを取り戻そう、サユリ…」
サユリの中の決意を感じ、マイはサユリの願いを聞き入れた。自分の旅の目的に変わりはない、変わりがないままサユリを今までの様に護りながら旅を続けられるのならそれで構わない…。
もうサユリを危険な目には遭わせない…今度はずっと自分が護り通す!そうマイ自身、新たに強い決意を心に抱いたのだった。
「ありがとう、マイ。それでマイ、これからどこに向かうつもりなの?」
「うん…。サユリと会う前に面白い情報を掴んだ…」
マイの話に寄ると、今このファルスと西方のスタンレーとは緊張状態にあるという。街の人の話には、最近ファルスの貿易を野盗が妨害しているとの話だった。そしてファルスは長年関係が悪いスタンレーが野盗を雇い貿易を邪魔しているのだと訴え出した。対するスタンレーは身に覚えのないことだと主張し、互いの関係はますます悪化し、現状の緊張状態になったということだった。
「それで街を歩いていたら、傭兵にならないかと声をかけられた…。無論、話は断わったけど…」
自分の主張を頑なに変えないスタンレーに痺れを切らしたファルスは傭兵を集め始め、近々スタンレーに宣戦布告するという話だった。また、そっちがその気ならこっちもと、スタンレーも傭兵を集め出しているとの話だった。今正にファルスとスタンレーは一触即発の状態だった。
「町の抗争に加わる気はない…。けど、もしかしたならその野盗がマスカレイドを盗んだかもしれない……」
「分かったわ。そういうことならまずスタンレーに向かった方が良さそうね。スタンレーが黒か白かにしろ、野盗に関する情報はそれなりに掴めそうだから」
「うん…」
自分が付いて行くと言いながらも、マイがどこに向かうべきかを示唆するサユリ。それをマイは悪いものだとは思わなかった。
この間のブラウンシュヴァイクの時のように、サユリはいざとなったら大胆な決断すらしてしまう人。そして同時に自分に仕える者達に分け隔てない信頼感を与える人。そういった所は正にローエングラム侯の妹なのだと、マイは思った。
そういった資質を持っているからこそ、どこまでも護り通したい。そう―自分が憧れるキルヒアイスがローエングラム侯に尽くしている様に……。
それぞれ様々な想いを抱きながら、マイとサユリは共にスタンレーへと向かって行った。
|
「ふう、ここらで一休憩と行くか」
「そうね。もう2〜3時間は歩きっぱなしだし、そろそろ休憩を入れてもいい所だと思うわ」
ランスまでの荷物運びを任されたユウイチ達は、東へ東へと足を進めていた。モンスターや野盗にいつ襲撃されるか分からないので、いざ戦闘状態に入ってもいいように馬などは使わず、荷物は荷台に収納して手押しで運んでいた。
「はいユウイチさん、お疲れ様です」
「おっ、ありがとうシオリ」
ふ〜っと溜息を付きながら道に腰掛けるユウイチに、シオリが背中に背負っていたリュックサックから飲み物を取り出し渡した。荷物運びは男の仕事だからとユウイチが一人で荷台を引っ張っていた。また力ではユウイチには敵わないもののそこそこの戦闘能力を有しているカオリとナユキは、いざ戦闘になった時素早く戦えるようにと、武器と傷薬などの回復道具以外は携帯しないでいた。それ以外の飲み物や食べ物といった物は一番戦闘能力が低いであろうシオリがすべて運んでいた。
「ブウウウン、グルル……」
「やれやれ、休み暇もないってことか…」
束の間の休息を味わっていた一向に、二種類のモンスターが襲い掛かって来た!
一種類は空を羽音を鳴らしながら飛ぶ奇形のカブトムシ型モンスターのビートル。もう一種は地を音を立てながら突進する猪型モンスターのバーゲストであった。
「グオオ〜!」
空からビートルが襲来するより早く、バーゲストの群れがその巨体を生かした突進攻撃を仕掛けた!
「えい、マタドールだよ!!」
その迫り来るバーゲストに怯むことなく、ナユキは小剣技マタドールによりバーゲストの突進力を受け流しながらレイピアで反撃した。
「はぁ、空気投げ!」
攻撃を受け流すナユキを見習い、カオリもバーゲストの突進力を受け流すかの様に、体術技空気投げで豪快にバーゲストを投げ飛ばした。
「怖がっちゃダメ…怖がっちゃダメ…。えい!でたらめ矢!!」
昆虫型とはいえ全長30センチは下らないビートルの群れに怖れを感じながらも、シオリは弓技でたらめ矢を放った!
「ブウウン〜ブウウン〜」
「あれ、何だか急に眠くなって来たよ……」
しかしシオリの矢は思ったよりも当らず、その羽音から催眠音波を発するビートルの催眠攻撃により、ナユキは深い眠りに就いてしまった。
「おい、ナユキ!」
シオリが射ち漏らしたビートルに攻撃を加えていたユウイチは、ビートルの催眠攻撃を食らってしまったナユキの姿を見て、急いでナユキの元に駆けついだ。
「グオオ〜!」
「させるか!ビーストチェイサー!!」
深い眠りに就いているナユキに勢い良く突進して来るバーゲストに、ユウイチは弓技ビーストチェイサーを放った!
「グギャァァァ!」
その一撃はバーゲストの急所を貫き、バーゲストは金切り声を上げながら絶命した。
「我等に恵みを与えし大地よ、その恵みの力を強靭たる石の塊と変え、かの者に一撃を与えん!ストーンバレット!!」
ビートルの催眠攻撃に苛まれながらも、シオリは術の詠唱を続け、白虎術ストーンバレットを唱えた!
「ヒュウウ〜ドガガッ!」
その石の塊は宙を舞い、一匹のビートルを撃墜した。
「食らえ!」
「これで最後ね!トマホーク!!」
バーゲストを掃討し終えたユウイチとカオリは、残ったビートルを攻撃し、残らず撃墜する事に成功した。
「ふう、何とか片付いたな。後は…」
モンスターは撃破したものの、ビートルの催眠攻撃により眠りに就いてしまったナユキは、一向に目を明ける気配がなかった。
「大地に恵みを与えし神秘の水よ、その奇蹟の力にてかの者の異常を取り払わん!神秘の水!!」
ナユキを起こす方法はこれしかないと思い、ユウイチは玄武術神秘の水を唱えた。
「ふああ〜あれっ、モンスターは?」
「もうとっくの前に倒したぜ…」
どうやらナユキは睡眠攻撃全般に弱いようだ。これさえなきゃ結構強いんだけどなぁ…。
そうユウイチは、ナユキの体質に飽きれた。今回は何とか援護する時間があったものの、これ以上の乱戦になったら流石に助けようがない。何とかなるものなら何とかならないものだろうかとユウイチは思った。
「まあ、催眠攻撃にはかかったけど、なかなかの戦い振りだったわよ、ナユキさん」
「どうもありがとうだよ。それはそうと、その”ナユキさん”っての止めてくれないかな?何だか同い年の人にさん付けで呼ばれるのはちょっと…」
「分かったわ。じゃあ私のことも呼び捨てでいいわよナユキ」
「分かったよ、カオリ」
ナユキとカオリは、互いに互いを気軽に呼び合うことを確認した。そして一行には、今度こそゆっくりと休憩する時間が訪れたのだった。
|
「しかし、本当にナユキの体質はどうにかならないものかな?」
ランスに向かう道程、話らしい話もないのでと、ユウイチはナユキの体質の話題を振った。ナユキ自身は「努力して何とかしてみるよ」と言うが、そういったものは努力して簡単に治るものでもないだろうとユウイチは思った。
「噂だと、催眠攻撃を防ぐ帽子があるって話よ」
「へぇ、それはいいなぁ。どこかで見つけたら早速ナユキに…」
「ガサガサッ…」
「!?」
他愛ない会話を続けていたユウイチ達の前に、草陰から忍び寄る音と共に数人の野盗が姿を現わした!
「へへッ、大人しくしな。その手荷物を全部こっちに渡せば、命だけは助けてやるぜ!」
「やれやれ、陳腐な台詞だこと…。残念だけど、そんな脅しは俺等には通用しないぜ!」
「まったくね…。悪いけど、あなた達にあげる物は何一つないわ!」
「ちょっと怖いですけど、でも悪い事する人達の言う事なんか聞きません!」
「今はストロベリー=ジャムじゃないけど、悪は絶対に許さないんだよ!」
野盗の頭目らしき男がユウイチ達を脅迫するものの、誰一人として脅しには乗らず、徹底抗戦の意向を示した。
「ヘッ、コケにしやがって!相手は男が一人、女が三人だ。たいしたことはねえ、野郎共やっちまえ!!」
頭目らしき男の合図により、野盗共は一斉にユウイチ達に襲いかかった!
「食らいやがれ!」
「女だからって舐めないことね!サミング!!」
三日月刀を振り下ろす野盗の攻撃を交わし、カオリは野盗の目に体術技サミングを叩き込んだ!
「ぐわわ〜。目が、目が〜!」
自分の目に向かって来るカオリの指に反応し、野盗の一人は咄嗟に目をつぶった。しかしカオリのサミングは皮膚の上からも眼球を刺激し、野盗はその激痛に苦しみながら地面に転がり込んだ。
「くっ、野郎共ひるむんじゃねえ!」
余りにも素早く適格なカオリの攻撃に野盗共は一瞬気圧されたが、頭目の一喝により再びユウイチ達に襲い掛かった!
「大地に恵みを与えし雨の雫よ、雷電と交わりし霧となれ!スパークリングミスト!!」
野盗が一瞬ひるんだ隙を見逃さず、ユウイチは玄武術スパークリングミストを唱えた。
「ぐああ〜、身体が痺れる〜。それに前が見え〜ん!」
電気を帯びた霧に野盗共は俊敏な動きと視界を封じられた!
「地を這う棘よ、その切っ先にてかの者等の動きを封じん!ソーンバインド!!」
スパークリングミストにより適格な判断が出来なくなっていた野盗共に向け、トドメと言わんばかりにナユキが蒼龍術ソーンバインドを唱えた!
その地を這う棘により、野盗共はほぼ完全に動きを封じられたのだった。
|
「さてと、早速だがお前達のアジトでも教えてもらおうか」
身動きの取れなくなった野盗の頭目に、ユウイチが訊ねた。末端の野盗を捕えただけでは問題の解決には至らない。大本を絶たない限り野盗の被害は収まらないだろうと思い、ユウイチは野盗のアジトの場所を聞き出そうとしたのであった。
「ヘッ、これで終わりだと思ったら大間違いだぜ。おい、お前等!」
「ピュピュピュピュピュピュピュピュ!!」
野盗の頭目が叫び出すと、突然草陰から数十本の矢がユウイチ達に向けて放たれた!
「しまった!草陰にまだ仲間が隠れていたのか!?グワッ!」
突然の攻撃により不意を突かれたユウイチは、身を防ぐ為に咄嗟に出した左腕と右足に矢を食らってしまった。
「わっ!」
「きゃっ!」
他の三人も体制を整えている間もなく身体に数本の矢を受けてしまった。
「よし!今の内に引上げだ!」
ナユキも負傷したことにより、ソーンバインドの効果が切れ、身体の自由を取り戻した野盗達はユウイチ達と戦っても損害が大きくなるだけだと思い退却し始めた。
「だが、その前に…」
「きゃあ!」
野盗の頭目が逃げ出すついでにとばかりに、一番か抵抗しなさそうに見えたシオリを拉致した。
「シオリー!」
カオリは野盗に拉致されたシオリを取り戻そうと必死に駆け上がろうとするが、足に受けた矢のダメージにより歩くことさえままならなかった。
「こんなもの!」
カオリは足に刺さった矢を抜き、傷口に傷薬を塗ると、その足で野盗後を追おうとした。
「カオリ!」
「シオリは私が絶対に取り返すから!だからユウイチ君達はこのままランスに向かうのよ!」
野盗を追おうとするカオリに声をかけるユウイチに、カオリは答えた。シオリは自分が取り返すから、ユウイチ達はランスに向かえと。
「そんなこと出来るかよ!俺もシオリを連れ戻しに行く!」
「ありがとう、気持ちだけ受け取ってくわ」
「カオリ!」
「荷物を運んだまま野盗を追うのは、野盗に荷物を取って下さいと言うようなものよ。それにユウイチ君には任された仕事があるのよ。初めての仕事を失敗するようじゃこれからの信頼に関わるわよ。だからユウイチ君はこのままランスに向かって!」
そう言い残すと、カオリは颯爽と野盗の後を追い、ユウイチ達の視界から姿を消した。
「くそっ!」
傷の手当てが済んだユウイチは、地団太を踏む様に拳を地面に叩き付けた。シオリを取り戻す為に野盗の後を追いたい。けど、カオリの言う事ももっともだ。今の自分は小さいとはいえ一商会の責任者なのだ。ならば、商会立ち上げの最初の仕事に等しいこの仕事は絶対に失敗する訳には行かない。
だからユウイチは、シオリを連れ戻しに行きたい気持ちを必死に抑え、カオリの言に従った。
「行こう、ユウイチ。カオリだって本当はユウイチや私に付いて来て欲しかったんだよ。だけど、ユウイチに迷惑をかけたくないから、カオリはランスに向かってって言ったんだと思うよ…」
「ああ、分かってる」
恐らくカオリには姉としての責任もあるのだろう。姉として自分の妹を護り通せなかった悔しさ、その気持ちがより一層カオリに責任感を与えているのだろうとユウイチは思った。
「じゃあ行くかナユキ。カオリの気持ちを無駄にしない為にもこのままランスへ」
「うん」
野盗の襲来により二人の姉妹が離れ離れになってしまった。その事実を認めながらも商売を成功させる為に、ユウイチとナユキは道を外れる事なくランスへと向かって行った。
…To Be Continued |
※後書き
前回の約束通り、舞と佐祐理さんが登場しました。やっぱりと言いますか、この二人は二人で一人という感が強いので、出来得るなら以後は別れずに一緒に行動するという形にしたいと思います。
しかし、潤を探すのを断念した佐祐理さんといい、拉致された栞を救出を香里に任せた祐一といい、何だか非情な行動を取っているような感がありますね。まあ、「ロマサガ」原作ですと、選択肢によっては「殺してでも奪い取る」みたいな展開になりますから(笑)、それに比べたらまだマシな展開かと思います。
それと、今回久々に通常バトルを書きました。何だかまともな対ザコモンスター戦はオープニングイベント以降書いていない気がしたので、久々に書いた次第です。相変わらず戦闘シーンの描写は下手ですが…(苦笑)。いつかは『月姫』の様なやたら緊迫感のある戦闘シーンを描けるように頑張りたいものです。
さてこれからの展開としましては、「荷物運び」、「ファルスとスタンレーの戦い」、「野盗の巣窟を叩く」、「氷湖のモンスターを倒す」等のイベントを消化し、ラインハルト以外のメインキャラがランスに集うという感じになるかと思います。
また、ランスでは美汐、美凪、みちるが登場する予定ですので、楽しみにしていて下さい。 |
SaGa−17へ
戻る